立石ヒロシ
1986年生まれニュータウン育ち文京区在住。兵庫県立北須磨高校出身。ライター、インターネット珍獣ハンター。パンクロッカー、私立探偵、食客、マーケットリサーチャー等の職を経て現在無一物。世の中に無限に生起しては消えていく曖昧なできごとに斬り込み真実と虚構を止揚していく。過去の担当書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(中経出版) 、『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)等があるかもしれない。
Twitter:@mychingmachizo
みなさんは「社員寮」と聞いたらどんなイメージを思い浮かべますか? 古き良き昭和の遺産、謎のしきたりが多い魔窟、はたまた若者が集まって住む「リア充」な場所……? そんな「社員寮」という文化の現在について、ライターの立石ヒロシが徹底調査をおこないました。
はぁ・・・仕事してないと毎日ヒマだな。
そろそろ仕事探さなきゃ、だよなー・・・・
でも、めんどくさい・・・・
・・・マンガでも読むか。
なんか、ちょうどよくマンガが置かれてるな。
ふーん、30年前のバブル期のマンガか。絵がすごいオシャレやな。
〜〜数時間経過〜〜
なんやこれ・・・
メッチャおもろいやんけ・・!!!
こんな名作を読み逃していたなんて・・・・
高校を卒業した青年が就職で上京、家具メーカーの社員寮に入ってセンパイたちや同僚のカワイイ女の子たちと飲み会したり温泉やスキーに行ったり、たまに仕事をしたりする青春ラブコメ・・・
今の俺とはリア充度が違いすぎるやろ常識的に考えて。
社員寮か。ええんとちゃうか。ええのかもしれない。無職だし。
だが・・・元探偵としては何かが引っかかる・・・
そう・・・!
これはあくまでもフィクション・・・ッ!
現実は、バラ色とは限らない・・・!
「社員寮」は、ルールが厳しいとか謎の風習があるとか、ネットの巨大掲示板で読んだことがある・・・
元探偵として、俺はいま立ち上がる・・・ッ!
社員寮の現実を解き明かすために・・・ッ!
前置きが長くなりましたが改めましてこんにちは、ライターの立石ヒロシです。元探偵です。
「見た目は大人! 頭脳は子供!」をモットーに、不倫調査から迷い猫探しに至るまで、数々の「解決不能」とされた難事件を解決に導いてきました。
前回は「女子の結婚したい職業」について調査しましたが、今回は「社員寮」という昔なつかしの福利厚生について、実際に在住経験のある人たちに取材し、「本当のところどうなのか」「リア充になれるのか」について徹底調査していこうと思います。
まずお話を聞いたのは、某大手化学メーカーに勤める平田さん(32歳、仮名)。東京都中央区出身、大企業勤務、物腰やわらかで育ちの良さが感じられる方です。
孫子も「兵は詭道なり」と言っていますが、これは「コアな話を聞き出すにはお酒が一番」ということですね(たぶん)。というわけで取材はすべて居酒屋でアルコールを摂取しながら行いました。
立石:まず基本的なところから聞きたいんですが、そもそも社員寮って何のためにあるんですか?
平田さん:福利厚生ですね。若手社員は給料も高くないので、若い時期はある程度、会社がサポートしてあげよう、という。製造業の場合、入社したら地方の工場に配属されて、最初の数年は寮に入ることが多いんですよ。僕は最初は関西の工場近くの社員寮に住ん言えました。家賃1万5000円くらい、食堂もあるので食費も浮くし、貯金がけっこうできましたね。通勤に時間がかからなかったのも便利でした。
立石:社員寮って、ルールが多くて不自由だったりしないんですか?
平田さん:門限とか外泊の制限は特にありませんでした。一応ルールではダメと決まっているものの、彼女を連れ込むのも見逃されていました。ただ、単身赴任の中年社員の方に見つかって会社にチクられ、総務から電話で注意されたことはあります。
立石:家族を置いて単身赴任してるのに、隣の若者がよろしくやってたらイラッとする、ということなんですかね。ちなみに社員寮を舞台にした某名作マンガでは、男子寮と女子寮が隣り合わせになってて、そこからドラマが生まれたりしてたんですけど。
平田さん:大きな工場は男子寮・女子寮はありましたけど、物理的には離してましたね。男性社員がのぞきをしたり、忍び込んだりする可能性を排除しないといけないからだそうです。
立石:なるほど、現実は甘くない。寮生活全体はどうでした?
平田さん:同期や年の近い社員も多く自然に仲良くなるので気軽に飲みに行ったり遊んだりできたし、仕事も円滑になりましたね。
立石:おっ、そこは漫画と同じなのか。
平田さん:……まあいろいろありましたよ。わいせつ行為で捕まった社員が自殺しないように夜中交代で見張ったりとか。
立石:人生、生きていればやり直しできますからね。まず生きるのは大事。
平田さん:あとは、借金で首が回らなくなったり駆け落ちとかで失踪者が出たり。ちなみに失踪する人が発見される場所ってなぜか方角的に北なんですよ。「人間は、つらいことがあると北に行きたくなる習性があるんだな」という、謎の学びはありましたね。
立石:それは良い学びを得ましたね。
続いて取材したのは、素材系メーカー社員の三反田(さんたんだ)さん(34歳、仮名)。20代の頃を通じて社員寮に暮らし、寮長を務めた経験もある「社員寮のプロフェッショナル」です。
立石:三反田さんも、入社してから20代のあいだは社員寮暮らしだったそうですが、ぶっちゃけどうでした?
三反田:同期と一緒だったのですごく仲良くなったし、夜を徹して『ウイニングイレブン』(※PlayStationのサッカーゲーム)をやったり、楽しかったですね。部屋でエッチなビデオを鑑賞しているときにも同期がガチャって部屋に入ってきて、「あ、すまん。取り込み中だったか」と言って、普通に帰っていく。非常にフランクな空間でした。
立石:家賃はどれぐらいでした?
三反田:最初に入ったのは一棟まるまる社員寮で、食堂や風呂も共同、家賃は8000円でした。二番目に入った寮はマンションの一部を借り上げて内部を改造してあって、ここも食堂付きで寮母さんがいましたね。家賃は12,000円でした。
立石:ルール面は?
三反田:2年目のときに「お前、下っ端だから寮長な」ということで寮長になったんですよ。それで寮生規約を読んだら、「女性を連れ込んではいけない」という規約がないことを確かに確認し、堂々と彼女を家に泊めたりとかはしてましたね。
立石:彼女は女子社員……ではないですよね?
三反田:同期で、今の妻です。
立石:ヘぇ……。社員寮を舞台に男女数人でキャッキャウフフ的なことも?
三反田:キャッキャウフフ自体はありましたが、寮がきっかけではなく同期のつながりですかね。男子寮と女子寮は離れていましたし。男子寮の同期や先輩たちとは、休みの日もよく一緒に遊びに行きましたね。寮をきっかけに仲良くなった人に、仕事で助けてもらったりもしました。
立石:なるほど、寮で全人格的に付き合うことを通じて繋がりを作り、それを仕事に活かす。古き良き日本企業的なメリットがあった、と。そして男女含めたリア充というよりは、男子校的な楽しさが勝る空間だったわけですね。
続いて、新卒時に食品メーカーに入社し、社員寮で暮らしていたという杉本さん(29歳、仮名)にお話を伺いました。現在は外資系企業に転職し、公私共にイケイケ盛りのビジネスマンです。
立石:杉本さんの寮ではルールはどうでした?
杉本:「家族以外の女性を連れてきてはいけない」という決まりでしたけど、実際はお目こぼしされていました。若い人は連れ込みを見逃してくれるんですけど、単身赴任のおじさんだけは要注意。見つかったら会社に告げ口されるんですよ。
立石:「おじさんの告げ口」は社員寮あるあるなんやな。女性の寮ってどうなってるんですか?
杉本:うちの場合は、女性は借り上げの寮に入ります。私も借り上げ社宅に入寮している時があったんですが、上の階に女子が住んでいて下に男子が住むから、週末は年の近い社員間で飲み会をやって交際が始まる、みたいなことはよくありました。
立石:ふーん……。
杉本:うちの会社ではないんですが女子寮ということでいうと、大阪・北新地の高級クラブでホステスをやっていたお姉さんに聞いたんですけど、クラブで借り切っている寮があるんです。日本中から美人ホステスが集まっていて、ゴミ出しのときすらも美女オーラがすごいので、近所では「美女マンション」と呼ばれていると。
立石:ほう……続けろください(ゴクリ)。
杉本:ただ、ホステスの女子寮だから監視が厳しくて、オートロックは2つ、塀には有刺鉄線がびっしり。その女性にはいつも仲良くしている弟分の男性がいて、頻繁に家に遊びに来ていたらしいです。
ある日、いつものように弟分が入口でインターホンを押して呼び出したんですが、彼女は寝ていて起きなかった。そこで彼は「まぁいけるやろ」と、有刺鉄線の塀を登って敷地内に入ってしまったそうです。
立石:わりとデンジャーかつイリーガルな案件ですね。
杉本:服が少々破けながらも塀を乗り越え、いつもどおりにエレベーターで上がって彼女の部屋のインターホンを鳴らしたら、やっと起きてきて無事に中に入れてもらえた。でも後日、彼が有刺鉄線を超えているところを監視カメラでバッチリ撮られており、要注意人物の写真としてエレベーター内に張り出されてしまったそうです。
彼は彼女からハチャメチャに怒られたけれど、張り紙を気にせず美女マンションに通っていた、と。
立石:ちなみに杉本さん、人から聞いた話のわりにエピソードがやたらと詳細な気がしたんですけど。
杉本:ええ、まぁ、仲のいい知り合いの、それに昔話ですよ。
立石:もう一度聞きますけど、本当に「知り合い」の話ですね。
杉本:は、はい……。世の中には乗り越えてはいけない壁もある、という教訓としてご紹介しようと……。
立石:そうですか。今日のところは了解しました。
ここまでは一般企業の方に聞いてきましたが、やはり昼の仕事で一番厳しそうなのは国防組織ではないでしょうか。
そこで、元自衛隊員の方にも事情を聞いてきました。
矢崎さんは大学を卒業後、航空自衛隊に入隊し、二年間の自衛隊勤務を通して寮生活でした。初期研修で北関東の基地に入ったあと、本配属ではとある離島の基地で働くこととなったのだそう。
立石:自衛隊の寮というと、かなり厳しそうに思うんですが実際はどうでしたか?
矢崎:そもそも自衛官には「指定場所に居住する義務」(自衛隊法第55条)があるので、居住の自由がありません。結婚したり昇進したりすれば基地・駐屯地の外に住むことができますが、ほとんどの独身の若い自衛官は隊舎と呼ばれる寮に入ることになります。
初期研修の三ヶ月間は集団生活で、一部屋6人くらい入居しているのですが、部屋のドアは開けっ放し、消灯後は絶対にベッドから出てはいけないなどの決まりがあります。風呂も10分で済ませなければならなかったり、生活も訓練の一環として厳しく管理されています。一方で、寮費は無料で光熱費や食事代もかかりません。
立石:そこは完全無料なんやな。さすが国防組織。
矢崎:初期研修での訓練を終えたあと、本配属で離島に行きました。そこでは多少、生活も緩くなりましたね。離島手当も出るし、周りに何もないからお金が貯まる。筋トレと、上官のモノマネの練習が唯一の娯楽でした。
立石:野球留学で親元を離れて暮らす高校球児みたいですね。男性自衛官の場合、そもそも彼女を連れ込むとかそういう以前の問題ですよね。
矢崎:そのとおりです。彼女はおろか、性的な衝動の処理もままなりませんので、ベッドの下に隠れておこなう、ということもよくあります。ただ、そのような類(たぐい)の衝動の高まりに耐えられず、脱走する人もいましたよ。
立石:映画『フルメタル・ジャケット』の”微笑みデブ”を思い出しました。
矢崎:まあでも、仕事が終われば和気あいあいとしたムードで楽しいですよ。お茶目な上官が定期的にエロ本を差し入れてくれるんですが必ず熟女ものだったり、基地内の日用品店のバイトの女の子をアイドルとして崇拝したり、男だらけの部活っぽかったかもしれないですね。
立石:寮生活をすると一定確率で男子校的な楽しさに目覚めるんやな。
ここまでは昼の職業における社員寮の実態を調査してきましたが、夜の職業でも「社員寮」の仕組みは存在するそうです。
そこで、3年前まで歌舞伎町のホストクラブに勤務していたというボンジョルノさん(28歳男性、仮名)に取材しました。
立石:ボンジョルノさんは前職がホストで、しばらく新宿・歌舞伎町の寮に住んでらっしゃったそうですね。都心部だと、家賃が高いですよね?
ボンジョルノ:一等地なので一人あたり5万円〜7万円が相場です。ホストクラブの寮がお店から徒歩圏内にあるのは、経営者や売れっ子ホストたちの急な呼び出しや、開店前の雑務に対応するためですね。
立石:寮の雰囲気はどうでしたか?
ボンジョルノ:食事や掃除等は、もちろん自分たちで行います。イメージとしては、社員寮よりも学生寮に近いかもしれません。2LDKや3LDKの部屋に何人も詰め込まれていて、若い男だらけなので汚いってレベルじゃない。
入寮しているのは、まだ指名をもらえておらず「ヘルプ」業務がメインの、売れていないホストが多いです。ホストは売り上げがモノを言う世界。寮に入っているのはお金がない、つまり売れてないから。稼げるようになれば近隣の賃貸マンションに引っ越し、もっと売れれば高級マンションに移ることも可能です。
一方、太客を失ったりして売上が下がり、寮に舞い戻ってくる人もいますね。「俺は昔は滅茶苦茶売れていたんだ!」と豪語していたりね。その一方で田舎の家族を養うためにホストになった純朴な子もいます。
立石:かなり多様な集団ですね。価値観が違いすぎると、ケンカになったりしないんですか?
ボンジョルノ:まあ、寮の治安は悪いですね。正面切ったケンカではないけど、私物やお金がなくなることは日常茶飯事。売れてる先輩に「寮に住んでるヤツは全員泥棒と思え」とアドバイスを受けて、僕も「早く抜けてやろう」と奮起しました。ホストはお客さんとも同僚ともお金で繋がっているわけですが、底辺ではお金の取り合い。一般の企業より人間関係がシビアだと思います。一般企業に勤めている今、その経験が役に立ってるとは思うんですけど。
立石:心がギスギスしてきたので、なんかハートフルなエピソードをください。
ボンジョルノ:僕がいたところはいつも最新のゲーム機があって、みんなで遊んでいました。ホストってなぜかゲーム好きなんですよ。それだけは、ちょっと青春っぽくて楽しかったですね。
立石:ホストと言えば酒を浴びては女を魅了するきらびやかな仕事かと思ってましたが、それも一部の話で、売れていないホストは寮でスラムのような生活を送っていたりする。現実はどこもわりと厳しいんやな……。
立石:はぁ……大企業から自衛隊・ホストクラブの寮まで調査してきたけど、マンガで描かれているような「男女数人でキャッキャウフフしてリアルが充実」なんてエピソード、大してないんやな。プライベートなし、社員の相互監視に盗み……なんて荒んだ世界なのだろうか。青春はフィクション、現実はコンプライアンス何のそのの『マッドマックス』『北斗の拳』的な世界なんやな。
結論としては、社員寮ライフは「わりと普通」「たまに地獄」ということかな。
社員寮に夢なんてなかったんやな……。
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「そんなことないですよ、立石さん!」
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> 突然ですがここで次回予告です <
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社員寮の現実(リアル)を目の当たりにし絶望する立石。「もう寮には夢を見られない……」そうつぶやきながら公園のベンチでたそがれているところに突然謎の女性が現れる・・・・
おもむろに立石に何かを提案するが……
憧れの社員寮ライフはどーなっちゃうの!?
次回1/23(木)更新!
「社員寮の天使が舞い降りた!? ドキドキ! はじめての社員寮訪問」
お楽しみに!
<企画・編集:株式会社LIG/撮影:二條七海>
1986年生まれニュータウン育ち文京区在住。兵庫県立北須磨高校出身。ライター、インターネット珍獣ハンター。パンクロッカー、私立探偵、食客、マーケットリサーチャー等の職を経て現在無一物。世の中に無限に生起しては消えていく曖昧なできごとに斬り込み真実と虚構を止揚していく。過去の担当書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(中経出版) 、『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)等があるかもしれない。
Twitter:@mychingmachizo