立石ヒロシ
1986年生まれニュータウン育ち文京区在住。兵庫県立北須磨高校出身。ライター、インターネット珍獣ハンター。パンクロッカー、私立探偵、食客、マーケットリサーチャー等の職を経て現在無一物。世の中に無限に生起しては消えていく曖昧なできごとに斬り込み真実と虚構を止揚していく。過去の担当書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(中経出版) 、『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)等があるかもしれない。
Twitter:@mychingmachizo
( 前回 までのあらすじ) 社員寮をテーマにした青春ラブコメ漫画に感化され社員寮暮らしに興味を持った立石。現実の社員寮生活を調査するもハチャメチャなエピソードばかりが飛び出し幻想を打ち砕かれる。冬の公園で絶望していると、そこにひとりの女性が現れて――?
もう、すっかり冬。
こんにちは。ライターの立石ヒロシです。
元探偵ということもあり年中、なにかを調べています。
前回(社員寮に入るとリア充になれるの?あの名作ラブコメ漫画に憧れて、経験者(会社員から自衛隊・ホストまで)にガチ取材した結果)、僕は社員寮生活のリア充な実態について経験者に聞き取り調査を行ったのですが、出てくるエピソードが「つらいことがあったら北へ逃走する」とか「越えてはいけない壁を登る」とか「厳しい訓練」とか「盗みの巣窟」とか、朝鮮半島を舞台にした戦争映画じゃないんだからさ……。
実際の社員寮生活は、ラブコメなんかじゃない。そこに夢なんてなかったんや……!
???:正太君!
???:じゃなくて立石さん!
???:な〜に落ち込んでるんですか。立て若人! 明日があるじゃないかっ!
立石:えっ、なんですかいきなり。僕は三次元寮生活の絶望に忙しいんですよ。
90年代ラブコメ漫画のノリとか見ててつらいし、見た感じあなたの方が若人だと思うし、僕の名前知ってるのも怖いし。では。
???:あ〜、ちょっと待って、待ってください!
立石:(ていうか誰)
???:はじめまして!私は独身寮に舞い降りた天使、またの名を日研トータルソーシング PRユニットの岩本と申します。
立石:(そこは「経理担当のみゆき」とかじゃないんかい)
立石:で、私めに何かご用でしょうか?
岩本:立石さんは社員寮について調査してるんですよね!? 実際に取材されてみてどうでしたか?
立石:いや、だから「人は失踪すると北へ向かう」とか「監視カメラに捕捉された」「セルフプレジャーはベッドの下に隠れて」とか、穏やかじゃない話ばっかりで、社員寮に対する偏見が強くなりました。
岩本:それはもったいないですよ! その偏見をただしたい! 偶然、近くに弊社の社員寮があるんですが、取材していきませんか!?
立石:あー寮ですか。二次元の社員寮ならいいんですけど、三次元はあんまり……。
岩本:これまで、男性にしか取材していないんですよね。公平を期すためにも、女性の意見も取り入れてみてはどうですか?
立石:(確かにそう……なのか……? ・・・・ん????)
立石:(これは、前回、杉本さんが言っていたみたいな、女子寮に潜入するチャンスでは・・・?)
・・・わかりました。そこまで言うのなら仕方ありませんね。僕は多忙なんですけど、今日はたまたま時間があるので、いいでしょう。
立石:このあたりは横浜と川崎の間ですが、都心でもなく田舎でもなく、駅前は再開発されて商業ビルも便利そうだし、ほどよく住みやすそうですね。商店街にブックオフもあるから、土日はラブコメ成分を摂取できそうなのもよいですね。
岩本:はい、弊社の寮は、事業所から手軽に通える距離にありますし、私は『銀魂』の土方が可愛いと思います。
川崎と横浜に挟まれた、工業地帯と都心地区の合いの子のような町の駅から徒歩15分。
閑静な住宅街に、日研トータルソーシング社の社員寮はありました。
居住者は全員同社の社員とのこと。丈夫そうなマンションなので少々のことにも耐えられそう。
岩本:どうぞ!こちらです。
立石:はーい、お邪魔します〜。
岩本:(ガチャガチャ)今開けますので〜。
立石:ここが噂の……さすがになんか悪い気がするなぁ。
立石:へぇ
立石:ムッ(探偵eyeを発動=怪しい部分を自動的にスキャニングする)
立石:う〜〜む、怪しいところは特にないか・・・
岩本:どうぞお上がりください。狭い部屋ですが、ありとあらゆる所を見てもらって結構ですよ!
立石:エッッ。いいんですか? すみずみまで見学させていただきますよ?
岩本:どうぞどうぞ。
まず、女性に人気の可愛いキャラのバッグ。動くラインスタンプにもなっていますね。
香水。香水だからいい匂いですね。ありがとうなのでぃす。
立石:\ちょっとトイレ借りますわー/
岩本:\どうぞー/
〜洗面所にて〜
お、これは・・・・・
あぁ、ムダ毛処理、やっぱり大事ですよね。
女性は女性向けのファンシーな色のカミソリを使うイメージがあったけど、男ものの本格的なやつを使われているんですね。まあそっちのほうが、5枚刃だったりして性能がいいかも。
本格的な電気シェーバーもお使いになるんですね。女性用のシェーバーだと、パワー不足になったりするんでしょうか。案外、多くの女性がこのようなシェーバーを使っているのかもしれません。
岩本:今、お茶を入れますので、見たいところがあればどんどん見てくださいね!
立石:いえいえ……おかまいなく……
キーボードですか。譜面はSuperflyの「愛をこめて花束を」。この曲をカラオケで歌う人は、己の歌唱力に自信アリですね。
で、さっきのほのぼのラッコキャラクター。かーわいいなーー。やっぱり女性の部屋ってファンシーなものが多いんやな。
だけど・・・・・
岩本さんは「ありとあらゆる所を見てもいい」って言ってたし、念のため引き出しの中も確認しておかねばなるまい。
靴下。
で、これは
ん? でっかいパンツ?
岩本:何やってるんですか、立石さん。
立石:いや、実は元探偵の血が騒いで、盗聴器等が仕掛けられていても物騒なので、念のためタンスの中を調査させていただいたんですが、こんなものを発見してしまいました。
立石:あと、こういった先端が尖っている布なども。
岩本:ええ、そうです。それがなにか?
そうか、謎はほとんど解けた!
岩本さん、あなた実は・・・男性ですね!?!?!?!!?
岩本:違います。
が、バレてしまったら仕方ないですね。以前、立石さんが取材して書かれてた「結婚したい職業」の記事を見て、日研の社員寮をPRしてもらいたい気持ちが高まりすぎたあまり、つい立石さんの住んでいるシェアハウスに、社員寮をテーマにした漫画を置いてしまったのです。
立石:怖すぎやろ! ってかどうやって忍び込んだん?
岩本:いえ、忍び込んだのではなく、立石さんと親しいご友人に企画趣旨を説明し、立石さんが一人で暇そうにしていそうな時間帯を狙って、漫画を置いてもらいました。
立石:しかしあの時は……シェアハウスの他の住人たちは出払っていた気が。
岩本:まあ細けぇことは置いといて、私も寮住まいなのですが、女性である私の部屋をお見せすることは現在の社会通念上、好ましくないと判断しました。そこで、企画に協力してくれそうな男性社員にお願いし、部屋を取材する了承を得て、立石さんをこちらの部屋におびき寄せたのです。
立石:じゃあ、剛毛というわけではないんですね……?
岩本:そういった質問はプライベートかつ、コンプライアンス的にも危ういのでお答えできませんが、お答えできる範囲でお答えすると、私は電気シェーバーは使っていない、ということです。
立石:わ、わかりました。失礼な質問をしてしまい大変申し訳ございませんでした・・・。
岩本:(ニヤリ)立石さん、それでウチの寮はどうでしたか?
立石:ええまあ、割と普通じゃないですか? 一人暮らしするには十分かと思いますが。特に変な人も住んでなさそうだし。奇声も聞こえてこない。
岩本:そんなの当たり前です! 立石さんが調査してきた人たちのお話が極端なだけです! 弊社の社員寮は至って普通なんです。寮費は基本格安、地域によっては無料のところもあるんですよ。
岩本:そして、テレビや洗濯機、冷蔵庫に電子レンジなどの家電や布団などの寝具一式も入寮時に用意しますから、急な就業でも安心です。しかも、寝具などは半年に1回新品にお取り換えしています。これはNIKKENだけのささやかなおもてなしです。
立石:それは便利。スーツケース1つで引っ越せますね。では、この部屋にあるようなかわいいぬいぐるみ、キーボード、J-POPの楽譜も支給される・・・?
岩本:必須家電以外はこの部屋の住人の私物です。
立石:そうですか・・・。ちなみに、ここは一棟借り上げの社員寮ですよね? だとしたら結構プライベートは確保されてるんですかね。米泥棒とか鬼軍曹とかは……。
岩本:もちろんいませんから、安心して住んでいただけます。
立石:でも、寮だったらやっぱりラブコメ要素がないと……。
岩本:弊社の寮は基本的に男女別にはなっているのですが、もちろん同じ事業所のメンバーで仲良くなったりすることは当然ありますし、私も今から部署の飲み会があります。
立石:普通なんですね。ラブコメでも魔窟でもないと。
岩本:はい。
立石:うーん。まぁ居心地もいいし、ありっちゃありかなあ。寮の暮らしも。
岩本:あの、私、今から飲み会なので帰っていただいていいですか?
立石:ムニャムニャ
岩本:今日はお越しいただいてありがとうございました!
立石:はい。お邪魔しました。
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(パタン)
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・・・と、いうわけで、 日研トータルソーシングさんの社員寮を見学してきましたが、いかがだったでしょうか。
僕としては「案外普通で一人暮らしと変わらないな」という感想です。
探偵の出番がない、特にトラブルも事件も起こらなさそうな平穏と安定の香りがしました。
いや、それがいいのか。
ていうか、あの部屋はいったい誰の部屋だったんだ。男性社員だと聞いたけど可愛いぬいぐるみとかあったし、パンツまで確認したけど大丈夫かな。どこかの日研社員さん、ありがとうございました。FF10の攻略本が本棚にありましたけど、まさか今もやってるんですか?
謎は深まるばかり。なんなのあの岩本とかいう忍者みたいな娘も。
今回は、日研トータルソーシング社の忍者娘こと岩本さんの計略にかかり、まんまと社員寮の見学まですることと相成りました。
前半は実際に取材ルートを使って接触した人々から聞いたガチの社員寮エピソードですが、岩本さんと出会ったあたりから、現実と虚構の境界線が融解してしまったように思います。
でも、日研トータルソーシング(株)の社員寮が案外普通で、便利な家具家電もついてきて、経済的にも助かるということは真実(リアル)のようです。
皆さんはどう思われますか? 真実(リアル)とは偶然の産物なのか、それとも誰かの「意志」によって造られた壮大な虚構(フィクション)なのか。
とりあえず僕は、「ラブコメが好き」という自分の気持ちだけは、信じていきたいと思います。
<企画・編集:株式会社LIG/撮影:二條七海>
1986年生まれニュータウン育ち文京区在住。兵庫県立北須磨高校出身。ライター、インターネット珍獣ハンター。パンクロッカー、私立探偵、食客、マーケットリサーチャー等の職を経て現在無一物。世の中に無限に生起しては消えていく曖昧なできごとに斬り込み真実と虚構を止揚していく。過去の担当書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(中経出版) 、『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』(KADOKAWA)等があるかもしれない。
Twitter:@mychingmachizo